オフィス・ラブ #∞【SS集】
「認めさせてあげましょうか」
またもやすっかり意地悪な気分に転じていた私の口調に、何か嫌なものを感じたらしく、新庄さんがちらっとこちらを見る。
けど負けを認める気はないみたいで、煙を吐きながら、横柄に私を焚きつけた。
「やってみろ」
わあ、いい度胸、見てろよ。
私は窓のへりにほおづえをついて、悠然と足を組み、憎らしい横顔に笑いかける。
「さっきの人はですね」
──私の、初めての人です。
新庄さんが、ギヤを四速に入れそびれた。
慌てて再度入れたものの、回転の合わないギヤチェンジに、車は無様にガクンと揺れ。
ちっと忌々しげに舌打ちして、叩きつけるように三速に落とす。
めったにお目にかかれないその失態に、私は遠慮なく笑った。
ちょうど大きな交差点の信号に引っかかったところで、シートベルトを外して、運転席に身を乗り出す。
唇から煙草を取りあげて灰皿に落とし、首に腕を回して、機嫌の悪い顔をのぞきこんだ。
「認めました?」
「なんのことだか」
その強情さに、思わず吹き出す。
軽く唇にキスを落として、目を合わせた。
「最初の人より、最後の人でしょう」
事実私は、お任せ状態だった最初の体験なんかより、ゆうべの新庄さんとの記憶のほうが、ずっと色鮮やかで、大切だ。
ちょっと釈然としない様子の新庄さんに、もう一度唇を合わせる。