イケメン御曹司に独占されてます
「きみとは中学と高校で学級員と生徒会を一緒にやっただけだよ。君が送ってくる近況報告の手紙にはたまに葉書を返しているけれど、それ以外僕としてはプライベートな繋がりは一切ないと思っている。先日祖母の元に縁談が持ち込まれたようだけど、申し訳ないが写真も見ずにお断りした。これが僕の見解だが……何か違う?」


その言葉を聞いた途端、自分のことを琴乃と呼んだ和風美女が、よろよろと泣き崩れた。


「好きなのに……。ずっと秀明くんが好きなのに……。どうして、私じゃいけないの……っ」


若い女性が泣き崩れるその騒ぎに、次第に周囲がざわめき始める。
私のことでこんなことになるなんて……。池永さんだけじゃなく、専務にも迷惑をかけることになるかも知れない。
そんな思いが過ぎり、不安でいっぱいになる。


「池永さん、私、帰ります」


腕の中から逃れようとしても、腰にきつく回された腕は緩まない。


「池永さん、これ以上騒ぎが大きくなったら——」


「ダメだ。お前は悪くない。逃げ出す必要なんて無い」


池永さんのまっすぐな目で見つめられて、それ以上逆らうことができない。
そのあいだも、お嬢様たちの錯乱は止まらない。


「秀明。一体これは何事なの?」


永久に続くかと思われた喧騒が、不意に響いた威厳のある声で一瞬で静かになった。

自然に道が開けられ、ひとりの女性が近寄ってくる。


「おやまぁ。一体何があったのか知らないけれど、年頃の娘が床に座り込むなんて、褒められたことではありませんよ。……あなた、神無月(かんなづき)家のお嬢さん? あらそれに……秀明、そちらのお嬢さんはどなた?」


迫力のある着物姿。左右には黒いスーツを着たいかつい男の人が控えている。
まるで実家のお父さんが好きな、時代劇みたいに。


「福田萌愛さんですよ、おばあ様。……今は僕のアシスタントです」


私を強く抱いたままそう言い放った池永さんに〝おばあ様〟は一瞬大きく目を見張り——次の瞬間、何故か満面の笑みを浮かべた。
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