イケメン御曹司に独占されてます
そしてそのままベッドに下ろされて『俺はちょっと片付けることがあるから、先に風呂入ってて』とまるで新婚家庭の忙しい旦那様のように慌ただしく行ってしまって、今に至る。


先に風呂入っててって言われても、着替えもないし……。


少し落ち着いてからこわごわ部屋中を探検して回って、バスローブと簡単な部屋着があるのは見つけたけど、そんな姿で池永さんを迎えるなんてとんでもない話だ。


羽織っていたストールは彼女たちに取り上げられたままだった。
貸衣装なのに……。無くしてしまったとなれば、専務の奥様に迷惑をかけてしまう。自分で探しに行きたかったけれど、またあのパーティの中に入っていくことが少し怖くて……。


肩に羽織ったままの、池永さんの上着。
あの時、私を後ろから抱きしめた池永さんの腕と吐息の感覚が、まだあちこちに鮮明に残っている。
思い出すと胸が締めつけられるようで、なんだか落ち着かない。


そっと上着を脱いで、両手で広げてみる。
細く見える池永さんの体にぴったり沿っていたタキシードの上着は、意外に大きい。
私の手首を掴んだ指も、抱きしめた腕も何もかもが力強くて、やっぱり男の人なんだと感じる。


そのままベッドに仰向けに寝転ぶと、胸に上着をかけてみる。
私の体をすっぽりと覆う大きさは、不安に震える私を抱いていたものと同じで……。


——お前は悪くない。逃げ出すことなんて、無いんだ。


あの時、その場から逃げ出そうとした私を離してくれなかった強い腕。
仕事でミスをした時もそうだけど、逃げることを許さない池永さんの、厳しさの中にある本当の優しさを今は痛いほど感じる。


池永さんの上着に、顔を埋めるように抱きしめる。
覚えのある微かな香りにまた疼く胸を、私は必死でなだめることしかできなかった。
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