イケメン御曹司に独占されてます
「そんな……。場違いだったのは私の方ですから……。もういいんです」


さらさらとした黒髪を乱れさせて、叶わない思いに苦しんでいたあの人。
その気持ちが、私にも分かる気がするから。


「ありがとう」


池永さんの瞳が優しく細められて、腕を掴んでいた手が肩に回った。そしてその指先が肩の傷跡に触れる。優しく肌をなぞられる感覚にはっとして、慌てて傷を隠そうと体を引いた。

だけど逃れることを許さない、池永さんの腕が私を強く引き寄せる。


「やっ……」


敵えないほどの力で、息ができないほど強く抱きしめられて。
戸惑いと、自分でもなんだか分からない感情が胸に溢れて、心臓が止まりそうなほど鼓動が速まる。


どうして?
なんでこんなことするの?


力を込めて抜け出そうとしても、池永さんの腕の力が強すぎてぴくりとも動けない。抗うように胸についた手を、また強く掴まれる。


顔を上げると、すぐそばにある切なげな瞳とぶつかる。
それだけで——涙が溢れて、止まらなくなった。



「悪い……。けど、泣くな。ますます離せなくなる」


揺れる炎のような瞳で私をしばらく見つめたあと、池永さんの腕が私の体をすっぽりと包み込む。

そしてその体温が伝わってくるほど長い間、力強い腕は私を抱きしめたまま離してはくれなかった。





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