恋は死なない。
       

 工房 かのん




可愛い草花の鉢に囲まれたドアを開けると、パッヘルベルのカノンのオルゴール音が流れてくる。


今日もまたこの工房に、結婚式を控えた幸せなカップルがやって来た。


自分の思い描く理想のウェディングドレス――、それは花嫁の夢だ。
一生に一度のその夢を叶えに、花嫁たちは佳音のもとにやって来る。


「100%オーダーメイドのウェディングドレス」が、この工房の謳い文句。
決まったパターンなどなく素材やディテールにまでこだわり、花嫁の小さな意見を一つ一つ汲み取って、一からウェディングドレスを作り上げる。


「いらっしゃいませ。ご予約いただいていた渡瀬様ですね?」


作業をしていた手を止めて、佳音が玄関口に出てくる。


「はい。予約していた時間より早く来てしまって、すみません。もう気持ちが逸ってしまって…!」


これから花嫁になる人は、頬を紅潮させている。佳音は同意するように嬉しそうに微笑んだ。


こんなに幸せそうな花嫁を見ると、これからその幸せの手伝いができることで、佳音自身も幸せを分けてもらえるような気持ちになる。


「どうぞ」


並べられていたスリッパを示して、室内へと促す。
すると、花嫁はいち早く、工房の真ん中に置かれたプリンセスラインの可愛らしいドレスに目を奪われた。


「わあ!すごい!!かわいいっ!!ステキ――♡」


思わず口に手を当てて、目を輝かせている。



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