恋は死なない。
そんな素直な反応を見て、佳音は恥ずかしそうに説明する。
「来週、納品するドレスです。まだ細かい仕上げがあって、完成していないんですけど」
「これでまだ完成してないなんて、本当に丁寧に作って下さるのね!やっぱり一点物のオーダーメイドのドレスは違うわー。お店に行ってたくさん並べてあるドレスを見ても、どれも似たり寄ったりでピンと来なくて…」
花嫁の言葉を聞きながら、佳音は別の視線を感じる。ふと振り返るといきなり視線がぶつかり、佳音の心臓がドキッと飛び跳ねて、身体がすくんだ。
しかし、すぐにこの花嫁の相手の男性だと覚って、会釈をしながら「どうぞ」というふうに腕を指し伸ばし、工房の中へと導いた。
「本日はこの工房に来て下さって、ありがとうございます。私がドレスを作らせて頂く、森園佳音です。」
「初めまして。私は渡瀬幸世と申します。…それと、婚約者の…」
幸世も丁寧に頭を下げた後、そう言いながら振り返って後ろにいた男性に目配せした。すると、佳音をまじまじと見ていた男性は、ピクリとして我に返った。
「…ああ!…僕は、古川和寿と申します。よろしくお願いします」
名前を聞いて、今度は佳音の方が内心ピクリと反応してしまう。
「古川和寿」というその名前は、佳音の心に今でも残る初恋の人の名前とよく似ていた。