恋は死なない。



ドレス作りに心を込めていれば、余計なことを思い出したり考えたりしないで済む……。そのために、佳音は以前よりももっとストイックに作業に没頭した。


それでも、体に残る感覚は、ふいに佳音の意識の表面に浮かび上がってきて、その集中を乱した。

和寿の腕の中の温かさ。唇が重ねられていた時の感覚。

和寿につながるものすべては、佳音が求めてやまないものだった。
追い求めるのはもうやめるよう、どんなに自分自身に言い聞かせても、自分の心に深く刻まれた想いは消すことができなかった。


「……あっ……!」


鋭い痛みに覚醒すると、針先が指を突いて、血が球となって膨れ上がっている。
ドレスの白い生地に血液を落として汚さないよう、佳音はとっさに指先を口に含んだ。


佳音は一息ついて、立ち上がった。工房の戸棚にある救急箱から絆創膏を出して、指先に巻き付ける。


思い返せば、抱きしめられたことも、熱くて深い視線を注がれたのも、和寿の感情を映した行為だったのかもしれない。
いつから和寿は、そんな感情をその眼差しに潜ませていたのだろう…。

和寿の心を思うと、にわかに佳音の心も乱れてくる。怪我をした指の痛みよりも、もっと痛みを伴う切なさに突き上げられて、胸が疼き、何も手につかなくなる。



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