恋は死なない。



こんなふうに思い悩む以前に、和寿がこの工房に来ることは、もうないだろう。

自分は和寿に「もう来ないでほしい」と言ってしまった。そして、律義な和寿はその言葉を忠実に守っている。あれから梅雨も明けて、もう半月が過ぎようとしているのに、工房には姿を現していない。


半月どころではない。これから多分、もう二度と和寿に会うことはないだろう。きっとあの夕立の日が、和寿との最後の日になってしまうのだろう。

本当にそうなってしまうのだったら、あの日のあの激しい雨の中で振り向いて、和寿の姿をきちんとこの目に刻み付けておけばよかったと思う。

こんなに胸が痛くなるほど愛しい人なのに、その最後の姿が佳音にはうまく思い出せなかった。


想いが通じ合う前よりもいっそう苦しくて苦しくて、痛みの波が絶え間なく打ち寄せて、佳音は眠れなかった。そして来る日も来る日も、涙で曇った眼で朝を迎えた。





8月に入り、幸世のウェディングドレスも完成に近づいてきた。納期は8月の中旬ということにしているので、この調子ならば予定通り幸世の手に渡せそうだ。
何とかここまでたどり着けて、佳音はホッと胸をなでおろしていた。


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