恋は死なない。



「あなたはこんな私を、『愛している』と言ってくれました。私は、それでもう十分与えられました。この言葉だけで、一生生きていけます。今までも、独りぼっちで生きてきました。それが、私にとって一番幸せな生き方なんです。もう……、これ以上ここに来て、私の平穏をかき乱さないでください」


どう言えば、和寿が納得してこの工房を後にし、そしてもう二度とここへ来ないと思えるか……、懸命に考えたうえでの佳音の言葉だった。


和寿が息を呑んで、その眼差しの中にかすかな絶望を宿した。何も佳音に語ることができなくなり、その絶望はどんどん大きくなっていく。

そんな和寿を見上げて、佳音は心に鎧をまとい、自分たちの関係を断ち切るための決定的な言葉を和寿に突きつける。


「私には、あなたは必要ありません。だから、あなたも、自分のいるべき場所に戻って、しっかり人生を歩んでいってください。私はもう、この神聖なドレスに触れる資格はないのかもしれないけど……。幸世さんの、そしてあなたの幸せを祈りながら、このドレスを仕上げさせてもらいます」


和寿は何も話せないどころか、もうこれ以上、ここにもいられなくなった。重い足を動かして玄関に向かい、まだ水気の残る靴に足を入れる。


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