恋は死なない。
それに、このジャケットがここにあれば、和寿は必ずまたここに来る。
佳音は手にあるジャケットに、目を落とした。
以前、花屋で会った時とは違う夏物のスーツ。その仕立てを確かめて、やはり既製品ではないことを、佳音は見て取った。
こうやって、自分の体に合わせて誂えられたスーツを着ているからこそ、和寿はあの完璧とも言える姿でいられるのだ。それは和寿の日常が、身なりでさえも細部にわたってキチンとしていなければならないほど、緻密で大変だということを物語っていた。
――流されて生きてきただけなんです…。
前に和寿が言っていたことを、ふいに思い出す。
毎日息つく暇もないほどの今の生活を、和寿はどう感じているのだろう…。
和寿が一生懸命頑張っているところを見ると、なぜだか佳音は胸が痛くなる。
無理をしてほしくない。体だけでなく、心に対しても…。
ジャケットを見つめて物思いにふけっていた佳音は、我に返って、気を取り直すように息をついた。
ハンガーを一つ取り出して、丁寧にジャケットをかける。
――…頑張って下さい…。
壁際のフックに掛けて、それを見上げながら、佳音は心の中でつぶやいた。