恋は死なない。



ジャケットを取りに戻ってきた和寿だ。
和寿は謙次の後ろから覗き込んで、佳音のこわばった顔を認めると、状況をすぐに把握した。


「こんな時間に、なにやってるんだ?」


和寿の発した険しい声に、謙次が振り返る。
佳音も助けを求めるよりも、普段の和寿からは想像もできないその声色の厳しさに驚いて、身体がすくんで何も答えられない。


「あんたこそ、なんだよ?関係ないのに、首突っ込むなよ」


謙次は、和寿のことを通りすがりの人間だと思ったらしい。怪訝そうな顔をして、追い払おうとした。


「関係なくない。僕は彼女の“彼氏”だ」


「……え?!」


和寿のその一言に、謙次だけでなく、佳音までも息を呑んだ。
和寿は謙次を押し退けるように室内へ入ると、そこに立ちすくんでいた佳音の肩を抱き寄せる。


「佳音は僕の“彼女”なんだよ。そういうことだから、下心見え見えのくだらない用で、もうここには来ないでもらいたい!」


呆気にとられている謙次に向き直って、和寿はそう言い放つと、ドアノブを掴んでバタン!とドアを閉めカチャリと鍵をかけると、サッとカーテンを引いた。


今目の前で起こった出来事があまりにも突拍子なくて、佳音は目を見開いたまま呆然として口も利けない。

すると、和寿は抱いていた佳音の肩から手をパッと離し、恐縮したように頭を下げた。



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