砂糖菓子より甘い恋1
御所からの帰り道、雅之は例の桜の樹の下へと足を運んでいた。

桜の花びらは、風に乗ってあたりへと舞い散っていた。
そろそろ、桜の季節も終わりと言う事か。

龍星は気にするなといったが、愛した女ではない女と一緒に眠る男が、哀れでならない。

雅之は懐から愛用の笛を取り出し、そっと唇に押し当てた。

笛の音はあの、鬼になった男に届くだろうか。
笛の音は、男が本当に愛した女にも届くだろうか。
死んでようやく好きな男と眠れる女は幸せだろうか。

夕闇に、物悲しい笛の音が溶けていく。



気が済むまで笛を吹き終えたとき、あたりはすっかり闇へと包まれていた。

「終わったか?」

後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
思わず振り向く。

龍星がそこに居る。
後ろに隠れるように、毬がいた。

「姫、お目覚めになったのですね?」
それはよかった、と、雅之は本気で安堵するが、毬のほうは歯切れ悪く
「ええ……」
と、言葉を濁して龍星の後ろからなかなか出てこない。

「毬姫?
 雅之に言いたいことがあるのですよね?」

「……うん……」

龍星に背中を押され、毬はようやく雅之のほうに歩み出た。

「どうされました?」

眠りに落ちる前、異様に自分を怖がっていた毬のことを思い出し、雅之はあまり近づかないようにしながら声を掛けた。



「雅之様、ごめんなさいっ」

毬がぺこりと頭を下げる。
予想外の行動に、雅之は言葉を失った。

「雅之様にとって、笛はとても大事なものなのに……
 それを投げつけちゃって、ごめんなさい……」

感極まって、毬はその瞳から涙をこぼす。
夜闇にまぎれて涙こそ見えなかったものの、その湿った声に雅之のほうが胸がつまり思わず姫の頭を撫でた。

「反省してるなら、それでいいよ。
 もう、投げないでくれる?」
「……はい……」

毬はうつむいたまま、顔をあげない。


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