ENDLESS



俺は、あの日から、あの話をしたことを、後悔している。



君は、あの日から、何かを、引きずっている。





それでも、俺たちは、一緒にいる、そんな毎日を送る、ある穏やかな午後に、





「随分、難しい本、読んでんだな」





君が、ローテーブルに置いた本の表紙を見て、俺は、感心を込めた声をかける。





「知ってるんだ、これ」



「まぁな、俺、国語の先生だし」



「本当に、それだけの理由?」





君が、まっすぐな目を向けてくる。



それは、とても、真摯で、



だが、何に対して、真摯であるのか、



想像もつかない、俺は、





「理由って……他に、何があるんだよ」



「あるでしょ?」





じわじわと、追い詰められているような、





居心地の悪さを感じた時、





「これは、ママが大切にしてる本だよ。私も少しは読んでみたけど、清ちゃんの言う通り、難しいから、理解できる気がしない。でも、国語の先生は、こういうの好きなんだね」





何か、とどめを、刺された、気がした。





「私のママも、国語の先生なんだよ。今は大学の講師やってるけど、私が生まれる前は、高校の教師だったの。清ちゃんも知ってるでしょ?」





君は、どうして、俺が知っていると、言うのだろう。





「私の家は……っていうか、ママの選択は、最初っから間違ってたんだよ。どうでもいい家庭なんか選ぶべきじゃなかった。ママには、もっと、一緒にいたい人がいたんだから……」





君は、何について、話そうとしているのだろう。





「あいつは俺には興味ないからな、って、ずっと、パパの口癖だった。それは、私も同じ。ママは私にだって興味ないからね」





俺の戸惑いにかまわず、君の告白は続く。





「小学生の頃、家で犬を飼うことになって、ママと一緒に家の周りを散歩することもあったよ。でも……だから、気づいちゃったんだよね。その時、ママが見てたものに。それは、何だと思う?」



「さぁ……」



「学校だよ、私たちの学校。いつも、散歩の途中に通りがかる、あの学校を、ママは、いつだって、優しげな目で見てた。私たち家族には向けようともしない、優しい目で」



「それは……先生だから、どんな学校でも気になるもんなんじゃねーか?」



「違う。そこに、大事な人がいたからだよ、パパや私より大事な人が」



「大事な人って……」





俺の戸惑いは、どこか焦りのようなものに変わり、手のひらに嫌な汗が滲んでくる。





「清ちゃん、その本、開いて捲ってみなよ。その中に、ママが大事に思ってる人がいるから」





その手で、本を取り、表紙を開き、ページを捲っていくと、



ちょうど真ん中あたりに、一枚の写真が挟まれている。





「……俺?」





その写真には、藤崎先生と並んで笑う、高校生の俺がいる。





「清ちゃん……ママと何かあったんでしょ。じゃなきゃ、こんな本に隠したり、散歩なんて口実つくって清ちゃんのいる学校見つめたり……清ちゃんだって、うちの家の近くの学校で先生やってるの、偶然なんかじゃないんでしょ、そういうことなんでしょ」





曝かれていく。





「その本と写真を見つけたのは、中学生の頃だった。写真の中の人……つまり、清ちゃんがあの学校にいることに気づいたのも、そのくらい」





知られたくないことを、一番、知られたくない、君に曝かれていく。





「だから、私、もっと近くで見てやろうと思ったんだよ。ママの心に居座り続ける人を。それで、高校は、あの学校を受験することにしたの。もちろん、ママは大反対。好きな人に、他の人とつくった子どもなんか見せたくないもんね。どうしてもあの学校に行くって言うなら縁を切る、って。それで、私、一人で暮らすことになったんだよ。家には帰りたくないって気持ちも本当だけど……でも、本当の本当は、もう家には帰れないんだよ」





俺の過去、そして、君の孤独、





「知ってたのか、そこまで、俺のこと、それなのに……」



「知ってたよ。でも、清ちゃんだって私のこと知ってて、黙ってたでしょ」





全て、全て……





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