ENDLESS
季節は、夏と秋の間。
今日は、二学期が始まって二週間目。
強くも弱くもない太陽が傾く、午後。
「今井先生……」
職員室に並ぶ、向き合ったデスクで、同僚は、これみよがしに項垂れている。
「何? 財布でも落としたんですか?」
「……落としてません」
「え、だったら、何なんですか?」
「うちのクラスの進路調査の回答、めちゃくちゃなんですよ。女子の半分近くが、アイドルだのモデルだの、本気で書いてるんでしょうか、これ」
「本気で憧れを勘違いしてんじゃないですか。一年生の進路調査なんて、そんなもんでしょう」
「そうですけど……」
「まぁ、三年生になれば、勝手に落ち着いていくんじゃないですか。うちのクラスの奴らも、やんちゃに見えて、進路は堅実に考えてますよ」
答えながら、ふと、自分の高校時代がよぎる。
今朝、あんな夢をみたからだろう。
藤崎先生の面影ばかりが浮かんでくる。
そういえば、俺は、いつから、藤崎先生を好きだと言って、そして、いつから、好きだと言わなくなったのだろうか……
「じゃあ、この回答は、どう思います? "オカン意外"って、どういう意味なんですか? 母親になりたくないってことですか?」
ああ、好きだと言わなくなったのは、子どもが生まれたからだ。
「今井先生、聞いてます?」
「聞いてますって。所帯染みたくないってことじゃないですか。単純に」
「そんな単純ですかね。ちょっと変わってるんですよ、この生徒。出席番号23番の藤崎……」
そう、子どもが生まれたのだ。
藤崎先生と誰かの、子どもが。
確か、名前は……
「藤崎もも」
“藤崎もも”
「ちょっと見せてください、それ」
「あ、やっぱり、今井先生も気になります?」
同僚から受け取った進路調査票の氏名欄を見て、俺は、愕然とする。
藤崎ももと書かれた文字が、藤崎先生の書く文字そのものだったからだ。
「この子は……」
……あんな夢をみた、十時間後。
俺は、ようやく、動揺を始める。
ふらり、一年生の教室が集まる階の廊下を、彷徨うほどに。
俺、
君のママが、
好きだったから……
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