ENDLESS
そうして、また、長い道程を引き返す。
成り行きとはいえ、君まで連れて。
「俺も学校の近くに住んでるから、おまえの実家の近くってことになるけど、いいのか?」
「家に帰らなくていいなら、何でもいい……」
「そっか」
やがて、目的地に着き、駐車場に車を停める。
俺が住んでいるところだって、君のところと変わらない。
ありふれた、1Kの賃貸物件。
大きな違いといえば、それなりに片付いている俺の部屋は、部屋として機能している、それだけだ。
「とりあえず、風呂、入ってこいよ」
部屋に入るなり、俺は、そう言って、君に、バスタオルを渡す。
「清ちゃんは?」
「明日の授業の準備するって言っただろ、おまえの服も洗濯しなきゃなんねーし、俺は、それ終わってからでいいから」
「何か、ごめん……」
「今さらだろ、気にすんなよ」
「うん……」
「あと、風呂から上がったら、早く寝ろよ、明日も学校だろ、俺もだけどな」
そうして、
今はもう、君は、眠ってしまった。
「おとなしくしてれば、綺麗な子なんだよなぁ……」
顔は、少し、藤崎先生に似ている気がする。
細い黒髪や、薄い白肌、華奢な体格は、
確実に、藤崎先生ゆずりだろう。
「それにしても、あの部屋……」
生真面目な藤崎先生が見たら、卒倒しそうだ。
「性格は全く似てねーな」
藤崎先生は、そう、生真面目で、言いたいことも飲み込んでしまうような、おとなしい人だ。
「おまえみたいに我が儘じゃねーし面倒臭くもねーんだよ」
だが、俺が知らないだけで、藤崎先生にも、そんな一面があったりするのかもしれない。
そう思うと、君が藤崎先生の素顔であるような気になって、
不思議な感覚に陥る。
「……いやいや、この子は、この子だから」
ふと、伸びる手は、君の頬を撫で、心地好い体温が伝わってくる。
そうしていると、まるで、子猫を抱いているような愛しさがあふれて、
「なぁ、藤崎先生さぁ……アンタ、こんな可愛い子に何をしたんだよ……」
俺は、溜め息を、落とす。
「家には帰りたくない、か……」
最初は、このくらいの年齢の子にありがちな反発心だと思っていたが、
それより、もっと、強い、拘り。
「……何があったのか知らねーけど」
何か、は、あるのだろう。
「やっぱ、放っておけねーよなぁ」
そして、君を連れ帰ってしまったことで、
いや、あの時、君に近づいた時点で、すでに、
俺は、その、何か、に、触れてしまったのかもしれない。
「親子そろって俺を振り回しやがって……」
また一つ、溜め息を落としながらも、
すやすやと眠る、
君を見つめる、
心は、穏やかだった。
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