冷たい舌
 

 
 さわさわと黒い木々が梢を揺らしていた。

 二人は大樹の陰に腰を下ろし、話していた。

 いつものあのちょっと甘えたような声でしゃべる透子に、和尚は、ほっとしていた。

 さっき、突然妙なことを言い出した透子の顔が、あのときと重なって見えていたからだ。

 思い詰めたように淵へと駆け出して行ったあの十四の夏―

「ねえ、和尚」
「なんだ?」

「何処へも行かないでね」
「俺が何処へ行くっていうんだ」

 だが透子は真面目な顔で見上げ、いつの間にか自分と絡ませていた指に力を込める。

「私以外の誰かを好きになったりしないで―」

 消え入りそうな声で懇願するように、そんなことを言う。

「お前な……」

 今まで俺が他に目を向けたことがあるかと文句を言いたくなった。

 自分ほど、透子ひとりに心を尽くしている人間はいない。

 いつも側に居る忠尚や斉上が、如何に遊び歩いていても、決して仲間に加わるような真似はしなかったではないか。

 ―だって、見てしまったから。
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