冷たい舌
 心に沁み込んで、永遠に離れないもの―

 子どもの頃、透子はまだ、淵で禊をしていた。

 今みたいに、女らしい身体つきではなかったが。
 長く伸びた手足、子どもなのに細くくびれた腰。

 身体に纏いつく、濡れて束になった長い黒髪の下で、月光に輝く白い肌。

 こんな奇麗なものを手に入れられるのは、きっと汚れのない人間に違いない。

 そう思って―

 和尚は透子の頬にそっと手を伸ばす。

「昔は……妖精みたいだと思ってたけど。
 今は、まるで、天女みたいだ」

「あんたときどき― 忠尚より、くさいこと言うわ」

 俯き苦笑する透子に、そのまま顔を近づけ、口づけた。


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