冷たい舌
 

 
 夢の中―

 透子は薄桃色と紫の霞みの中を漂っていた。
 ふいに、その色がグラデーションの空に変わる。

 懐かしい、あの日の夕空だった。

 今より幼い、だけどもう、誰より澄んだ眼をした和尚の手が、あのときと同じに頬に触れる。

「ま、待って」
 ついそう言ってしまっていた。

 和尚が訝しげな顔をする。

 今、此処で顔を背けさえすれば、この人を助けられるかもしれない。そう思った。

 今、此処でこの人を拒絶しさえすれば―

 なのに、口は勝手に訊いていた。

「……和尚。私のこと、好き?」

 それは、今の彼にさえ、改めて訊いたことのない言葉だった。

 和尚は目を逸らしたが、ぼそりと呟く。

「馬鹿じゃねえ……?」
 口許を歪めて照れたように笑う。

 透子の唇は、涙を堪えようとして震えていた。

 どうしよう、私、この人が好きだ。
 どんな罪を犯しても、神を殺しても。

 私は、この人が欲しい。
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