冷たい舌
 透子は幼い和尚に心の中で問いかけた。

 この先、私と地獄に堕ちるとしても、貴方は私を許してくださいますか―?

 自分に触れてくる和尚を、透子は目を閉じずに見ていた。

 焼き付けておきたかったから。
 貴方のその顔を。

 この目に、この心に。
 何処までも持っていけるはずの、この魂に。

 口づけられた瞬間、震えるまつ毛の隙間から、透子はそれを見た。

 思わず、声を上げそうになる。

 和尚越しに見上げた空。

 そこには紛れもない彩雲が広がっていた。

 グラデーションの空に、薄く棚引く七色の雲。

 彩雲だ……!

 あれはやっぱり、紛れもない彩雲だったんだ。

 透子の目から熱い滴が零れ落ちた。

 何が、吉兆なんだかわからないが、空だけにでもいい、祝福されていたことが、ただ、嬉しかった―
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