フキゲン課長の溺愛事情
「課長はいつもバーに寄るんですか?」
「いつもじゃないが、今日は俺が帰ってくるまでに水上がシャワーを浴びたらいいかと思って」

 その言葉に、璃子は鍋を混ぜていた手を止めた。

「もしかして気を遣って、わざわざ遅く帰ってきてくれたんですか?」

 返事がないので達樹の方を見ると、彼は頬杖をついていた。大きな手に隠れていてわかりにくいけれど、横顔が照れているようにも見える。

 会社では見えない細かな気遣いを示されて、璃子はなんだかくすぐったい気分になった。口もとが自然に緩んでしまう。

「課長って、本当は〝不機嫌課長〟じゃないんですよね」

 璃子の言葉に、達樹はなにも言わず視線だけ彼女の方に向けた。

「エコタウン研究センターのホームページで課長の満面の笑みを見つけましたよ」
「あー……あれか」

 達樹が大きな手で目の下まで顔を隠した。

「課長は……日本に帰って来たくなかったんですか?」

 その問いかけには返事がない。璃子は温め直した肉じゃがと味噌汁、炊飯器からよそったご飯を達樹の前に置いた。
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