フキゲン課長の溺愛事情

 そうして別々に出社したその日。璃子がパソコンでレイアウトを調整している横で、キーボードを叩いていた沙織が重いため息をついた。

「ねー、璃子、どう思う?」

 璃子は顔を上げた。斜め前にいる沙織は、眉間に深いしわを刻んでいる。

「どうしたの?」
「和田さんがさぁ」

 友紀奈の名字を出されて、璃子の肩がピクリと震えた。

「今度はなに?」
「昨日中にって頼んでたパンフの和訳、仕上げてくれないんだ。朝一で届いてるかなって思ってたのに届いてなくて。『どのくらいできてる?』って社内メールで問い合わせたら、『今はほかの案件で手一杯なので、週明けまで取りかかれません』だって!」

 話しているうちに沙織の言葉にいら立ちがにじみ、璃子はため息をついた。

「あー……それ、やっぱり私のせいかなぁ」
「そんなわけないでしょ。あれは月曜のことじゃない。それに璃子のことが気に入らないにしたって、そもそも和田さんの方が悪いんだよ。璃子はもっとひどいことを言ったってかまわなかったのに」
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