フキゲン課長の溺愛事情
「うん、うまいな」

 璃子のすぐ目の前で、達樹がピンク色の舌を小さく出して上唇を舐めた。その表情がやたらとセクシーで、璃子の心拍数が跳ね上がる。

「どうした?」

 真っ赤な顔の璃子を見て、達樹が言った。そのわずかにかすれた声すら色っぽく感じてしまう。

「あ、あんまりいっぱい食べないでくださいよっ」

 璃子は言って視線を逸らした。これ以上達樹を見ていたら、ただでさえのぼせ気味の頭に血が上って倒れてしまいそうだ。

「大丈夫だよ。水上のぶんはちゃんと残してある」

(ああ、これじゃ食い意地の張った女みたいだ……)

 赤い顔を見られないためとはいえ、自分で言ってしまったセリフを後悔してしまう。達樹の方をチラッと見ると、彼は相変わらず涼しげな表情をしていた。

(課長はどうしたら私と同じくらい焦るんだろう)

 歓迎会の翌日、啓一と勘違いしてキスしたときでさえ、達樹は落ち着いていた。それ以来、彼の表情の小さな変化に気づくようにはなったけど、それでも動揺しているところは見たことがない。
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