フキゲン課長の溺愛事情
「わあ、ステキ!」

 旅行ガイドブックやテレビ番組でしか見たことのないような趣のある家屋の姿に、璃子はほうっとため息をついた。そのとき、前方の車道からブラックのSUVが近づいてきて、かやぶき屋根の横の駐車場に停車した。SUVのドアが開いて、背の高い男性が降り立つ。

 達樹が目を細めて男性の姿を見てから言った。

「彼が古民家@ホームの代表の柳瀬(やなせ)海翔(かいと)さんだよ」

 近づくにつれて男性の端正な顔がはっきりと見え、璃子は思わず声を上げた。

「あ」
「どうした?」
「あの男性、町営温泉施設の休憩室で、課長の近くのソファに座って新聞を読んでましたよ。あのときは奧さんと娘さんも一緒だったのに」
「そうなのか? 近くにいたのに気づかなかったな。そういえば、娘さんが生まれたとハガキをもらっていたよ」

 達樹が懐かしそうに言いながら足を速めた。璃子も達樹と歩調を合わせる。ふたりが近づいてくるのに気づいて、海翔が整った顔に大きな笑みを浮かべた。

「藤岡さん、お久しぶりです」
「こちらこそ、ご無沙汰してます」
< 200 / 306 >

この作品をシェア

pagetop