フキゲン課長の溺愛事情
「元気だと思いますよ……。結婚するそうです」

 達樹が低い声で言った。

「すみません」
「いいえ」

 達樹の声を最後に、気まずい空気が流れたが、それを図らずも破ったのは璃子だった。玄関から入ったとたん、思わず声をあげてしまったのだ。

「わあ、ステキ!」

 広い土の土間があり、上がり框(かまち)と呼ばれる横木に艶のある木目の美しい木が使われていた。天井には古い年月を感じさせる梁が見え、畳独特の爽やかな香りがする。

「どうしよう、匂いだけで癒やされる! いい匂~い」

 璃子が目を閉じてくんくん匂いをかいでいるのを見て、海翔が瞬きをした。

「いい匂い!? そういう感想は初めてです」

 海翔の驚いたような言葉に、達樹が苦笑する。

「水上はこういうおもしろいやつなんです。気にしないでください」
「なかなか新鮮な感想、ありがたいです」
< 203 / 306 >

この作品をシェア

pagetop