フキゲン課長の溺愛事情
 達樹はいたって真面目だが、璃子の方は理解が追いつかない。

「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。だって! アンモニアって……!」

 やっぱりソレが農業に使われるというのはどうも抵抗がある。

「実はストックホルムのエコタウンでも使われているし、オランダやフィンランド、アメリカでも試験的にも本格的にも取り組みが始まっている。日本だって江戸時代には堆肥としてさかんに使われていたんだよ」

 たしかに江戸時代には肥だめというものがあって、そこに貯めたものを農家がわざわざお金を出して購入していた、というのをなにかの授業で習ったか本で読んだ記憶がある。

「途上国では不適切な下水処理が伝染病などの疾病の原因になっている一方、肥料が足りずに食料不足に陥っているところがある。その両方を解決できる手段として、分離トイレを導入するプロジェクトを海外で行っている日本の大学もあるんだ」

 達樹が熱のこもった口調で言った。璃子は廃水再利用プロセスを表面的にしか理解していなかったことに目の覚める思いがした。工場廃水・家庭排水が処理される仕組みをPRする仕事をしているのに、その排水の中身がなんなのかを考えたことがなかったのだ。
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