フキゲン課長の溺愛事情
「きっかけはそれかもしれない。でも、ずっとそばにいさせてくれたわけでしょ? 落ち着いたら出て行ってくれ、とか、次の引っ越し先を早く探してくれ、とかも言わずに。それは璃子のことが嫌いじゃないからだよ。もっと言うと、好意は抱いてると思う」
「でも……今は後悔してるみたいだし、今日帰ったら『出て行ってくれ』って言われるかも……」

 沙織が手を伸ばして、璃子の右手を握った。璃子は驚いて友人の顔を見る。

「その人、そんな無責任な人なの?」
「え?」
「困ってる璃子を住まわせてあげといて、自分が後悔したから一方的に出て行け、なんて言うような、無責任な人なの?」

 沙織の言葉に、璃子はハッとした。

『力で俺に勝てるとでも?』

 いつか彼が言った通りだ。達樹が璃子を抱こうと思えば、いつでもできたはずだ。けれど、困っている璃子の弱みにつけ込むことなど一度もなかった。

『俺を酔って寝ている女を襲うような男だと思っているのだとしたら、それは水上に男を見る目がないということだ』
『部下が目の前で困っているんだ。手助けしようとしてなにが悪い?』
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