フキゲン課長の溺愛事情
「とりあえず仕事しよ。来月の社内報のドラフトを早めに出してって、高井田(たかいだ)課長に言われてるし」

 OSK繊維開発では、企業としての広報は総務部広報課が担っている。だが、五年前、環境都市開発部を新設したときに、海外プロジェクトの広報専門の部署として、環境都市開発部にも広報室が設置された。新設であること、また〝室〟であることから、現在璃子たち三人が所属する広報室を監督するのは、新設当時の広報室長だった現総務部広報課の高井田美月(みづき)課長になっている。そのため、今は広報室に室長は不在という、少々ややこしい状態である。

「あ、そうそう、社内報のインタビュー、璃子に任せてもいい?」

 沙織が璃子に言った。

「え、どうして?」
「だって、インタビューの相手は藤岡課長でしょ。あの無愛想アンド不機嫌オーラを打ち破るのは大変そうだもん。璃子は課長に送ってもらったし、一番話を聞きやすそうじゃない?」
「えーっ」

 言われて璃子は困ってしまった。彼のことを〝無愛想アンド不機嫌オーラ〟を纏(まと)っているけれど、やさしい人なのかも、とは思った。けれど、土曜日の朝は勘違いとはいえ彼にキスしてしまい、あげく目の前で大泣きしたのだ。
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