フキゲン課長の溺愛事情
 そんなことを思いながら、璃子はノートとペンケースを大きな青い花柄のトートバッグに入れた。タイピングは早い方だが、インタビューの内容をメモするときはやはり紙とシャーペンを使う方が都合がいい。

「藤岡課長のインタビューに行ってくる」

 璃子の声に、沙織がパソコンのモニタを見ていた顔を上げた。

「もう?」
「うん。十一時半から時間が取れるんだって。総務部フロアの休憩室に行ってくるね」
「じゃ、総務課に寄って、和田(わだ)さんに〝パンフの日本語訳、今日中じゃなくて明日中でかまいません〟って伝えてくれる?」
「今日中じゃなくていいの?」
「うん、璃子のインタビューの参考になるかなと思って、和田さんには今日中にってお願いしてたんだ。でも、璃子が使わないなら、私の方は急がないし、今日中じゃなくてもいいから」
「了解」

 璃子はトートバッグを肩にかけて、デスクが三つ並んだだけの狭い部屋を出た。オフィスとは名ばかりの、かつて倉庫だった日当たりの悪い角部屋だ。研究所などの技術系の部署に優先的に予算が回されるためだが、それでも璃子は自分たちが中心となって、自社の海外プロジェクトを国内にPRするこの仕事にやりがいを感じていた。
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