B級恋愛
タバコの煙がたなびいている。慣れたものだと感心する。時折灰皿に灰を落とす為に視線が外れるが危うい感じになることもなく安定した走りをみせる。灰を落とす市川の手にみとれる。男の人らしいガッチリとした手だ。

「市川さん、今さらですが…行き先って…決めていますか?」

恐る恐る訊いてみた。会社的地位とか気にしないではあろうが念のためだ。そもそも論成人した男女でお互い独身である。自らの責任の範囲内であれば会社に迷惑はかからないが…。

「いや特には決めてねえけど行きたいところとかあんの?」

市川に返されて杏子は戸惑う。行き先なんて考えていなかったのだ。寧ろ市川が行き先を決めて誘ってくれているのだとさえ思っていたというのもある。

(普通、行き先を決めているよね…)

言葉にしないこんな思いを無意識のうちに思った。

「水族館…でいいか?」

「ふへっ?」

市川の急な発言に奇妙な声で返す。そんな杏子に市川がひく。

「え…はい。いいですね、水族館。行きましょう」

やっとの思いで杏子がこう返すと一番近い水族館に向かった。

休日と言うこともあり水族館は家族連れとカップルでそれなりに混んでいた。入場券を買ってもらい中に入る。目の前に巨大水槽がとびこんできた。大小様々な魚達が優雅に泳いでいる。

「魚見ていて楽しいか」

ガラスにへばりつくように見ていると市川が声をかけてきた。

「はい、優雅に泳ぐ彼らを見ると癒されます」

こう返すと市川は頷いて彼女の隣に立ち水槽を見つめる。

「たしかに…綺麗だな」

こう呟いて笑みを浮かべた。

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