B級恋愛
「はい」

市川の言葉に返事をし、ふと隣を見る。

（市川さんが…笑ってる…）

思わず釘付けになる。仕事をしている時の彼からは到底想像ができないくらいの笑顔で笑っている。仕事中もそれなりには笑うがあんなに優しく笑う彼を知らない。そして仕事中は大概ﾑｽｯとしていて近寄りがたい。

（こんな顔もするんだ…）

ほぼﾚｱな市川の表情を見た杏子はそのまま彼を見る。ﾚｱだから二度と拝めないかもなどという黒い感情もあるのたが。
頭がよくて美形。きっと肉体美だって綺麗なはず。黙っていればﾓﾃﾞﾙ並みの容姿だろう｡しかし、人を弄って遊ぶくせに自分は弄られるのが嫌いという偏屈者で毒舌を撒き散らす…残念なことの方が目立つ…

「何？」

（ほら、そういうとこもったいない…）

心の中で市川をどつく。

「何でもないです」

杏子はこう返して歩き出した。

（もう少し見ていたかったな…）

こんなことを思い市川から少し離れたところで振り返る。薄暗くて彼の表情を窺うことはできない。僅な光に当てられた市川のﾚｱ顔は心底綺麗だと思った。

（あんな顔時々でいいから仕事中でも見せてくれたらいいのに…）

また見てみたい。こんな思いからふとこんな思いを心の中で呟いて表情か見えない彼を見ていた。
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