B級恋愛
薄闇の館内を出たときあまりの眩しさに一瞬だけ目を閉じる。太陽はまだ南の空にあった。人は疎らで館内よりずっと空いている。

「腹減らねぇか?」

市川に問いかけられて杏子は考え込む。空腹感はそれほどないのだ。

「お腹は空きませんが疲れたので甘いものがほしいです」

「甘いもの…?アイスクリームみたいな…?」

市川がアイスクリームの看板を見つけて指を指しながら杏子に訊ねる。

「もう少しお腹に堪るような…あ!向こうにクレープ屋さんがあります、市川さんクレープを食べましょうっ」

「いや、お…っと!待て」

クレープ屋を見つけると一目散に杏子は走り出して慌てて後を追った。

「チョコバナナとあと―――市川さんは何にします?」

クレープ屋さんの前に立ちバックの中からサイフを取り出して市川を見る。

「ツナサラダ」

こう言い捨てると2つ分の代金を出す。

「ちょつ…クレープは…」

「黙って奢られろ」

杏子のサイフを引っ込めてレジの前に立つ。クレープを2つ受け取りチョコバナナクレープを渡す。

「いらねーのか?」

なかなか手を出さない杏子にさらに突き出す。

「いただきます…」

杏子は恐る恐る手を伸ばし受けとって一口頬張った。

「美味しいっ」

ベンチを見つけて座り二人ともクレープを頬張る。さっきまでの緊張をしていたような面持ちはどこへやらと呆れた。

「甘そうだな、それ」

杏子が頬張る度にクリームが生地からはみ出してきている。あまり量が変わっていないような気がするのは気のせいだろうか。

「甘いですよ、当たり前じゃないですか」
口の中のクレープを飲み込んでこう返す。市川も自分のクレープを頬張る。

「市川さんのも美味しそうですね、一口ください」

「ん…ほら」

――――――――――

クレープを突きだしたら杏子がかぶりついてきた。

「っこら。何かん―――」

「美味しいですね、市川さんのも」

悪気なく杏子はこう返す。

「あ…ならよ…くねえよ」

「へっ!?うわあごめんなさい。私一番美味しいところを食べちゃったんですね」

!?

何を勘違いしているんだ?こんな思いが市川の脳裏に浮かんだ

「えっと…お詫びに…もなりませんが私のクレープも一口どうぞ。バナナが特にお勧めですよ、クリームも…」

「そうか、じゃあもらう」

こう言って杏子からバナナを貰った。
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