B級恋愛
バナナにはしっかりとクリームがついていた。

「ホント甘いものが好きだな、女子って」

やっとのバナナを飲み込んで口直しとばかりにツナサラダクレープの一口を飲み込む。

「甘いものを食べると幸せな気分になるんです」

杏子はこう返して笑顔になる。甘いものはすごく好物だ。
けれどそこまでして甘いものを食べたいと思わない市川にはわからない。確かなのは口の中が異様に甘ったるいということだ。
「市川さん、ごちそうさまでした」

「ん…」

市川は頷き返して口許をハンカチで拭う

「少し散歩しませんか?」

杏子はこう言って立ち上がる。

「そうだな」

こう返すと立ち上がり歩き出した

海が近いせいか風は少しだけ冷たいと感じる。辺りを見渡せば温もりを感じたいと言わんばかりに他の恋人たちが互いに方を寄り添わせている。
市川は杏子よりも少しだけ後ろを歩いている。杏子もそれを気にすることなく歩いてはいるがやはり気になった。

「市川さん、どうして私を連れ出したんですか?」

立ち止まり振り返る。彼は歩みを止めることなく進みついには京子を抜いた。

「市川さんっ」

「…なんだ?」

少し怒り口調で呼び止めると一瞬だけ面倒くさそうにため息を漏らす

「質問に答えてください…なん…」

「理由なんてねえよ。オレが暇だったから。それだけだ」

事実を伝える。市川からすればそれ以上もそれ以下の理由もない。

「デリカシーがないんですね」

「なっ…」

市川は杏子の一言に更なる憤りを感じた。
「市川さんが暇かどうかなんて私には関係ないことでしょう?時間潰しのために女を呼ぶなら…」

「ならなぜ来た?オレは強引に誘った覚えはない」

…………。

杏子は黙りになる。たしかに市川の言う通りだ。断るという選択もできた。なのにそうしなかったのは杏子だ。
海風が二人の間を吹き抜ける。

「…気分転換になったか」

「え?」

頭上から降ってきた柔らかい声に顔をあげる。
市川が目の前にいた。

「昨日やさくれていただろう?そのまま仕事に来て仕事ができませんでは迷惑だ。だから気分転換にでもなればと思った」

市川の発する一語一語が柔らかく感じる。海風に乗って発せられるその言葉はとても―――

「…はい。失礼な言い方をしてごめんなさい」

自分の発した言葉を思い出して恥ずかしくなり謝る。

「いいって。気にしていねぇから」
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