B級恋愛

市川はこう返してはにかむ。杏子はただ恥ずかしくなり俯く。

「相崎さんのいう通り疑問を感じるのは当然だと思う。そうやって自分を守るのは大切なことだ。食われてからじゃ遅いってことの方が多い」

「市川さんは―――」

「そんな人じゃない…？」

市川の質問に小さく頷く。

「ありがとな。そうやって信頼を寄せてくれるのは嬉しい。けど他の奴等はわからねぇってことを肝に命じておけよ」

「あ…はい」

杏子はこう言って笑った。


「おはようございます」

次の日。杏子はいつもよりもほんの少しだけ勢いよくﾄﾞｱを開けて職場に入っていった。

「おはよう」

受付のｶｳﾝﾀｰから声がした。市川がいつもの表情でﾊﾟｿｺﾝのﾃﾞｰﾀｰを睨み付けている。一瞬立ち止まり市川を見る。この表情の方がしっくりくる―――そう思ったが口にはせず更衣室に向かった。

営業準備を終えて受付に立った。しばらくして遅番がくる時間になり杏子達は食事をすることにした。
食事の時間は他愛ない話に花が咲く。昨日の事に触れることはお互いになかったが…
「そういやあさ一昨日妹さん結婚式だったんでしょ？どうだったの？」

うぐっ…

同じ職場の館林に言われて言葉につまる。結婚式は大半をﾎﾞｲｺｯﾄしていたから感想なんて言えない。どうしたものか悩んだ。
ふと市川を見る。しかし自分には関係ないと言うかのようにｺﾝﾋﾞﾆ弁当を食べ続ける。

（無視かい！）

やり場のない思いを玉子焼きにぶつけ頬張る。

「ね、どうだったの？」

「えっと…普通…でした」

こう返すのが精一杯だ。大半は…具合悪くなっていた…ということにしてありまともに出ていないのだから

「妹の結婚式…なのに？」

杏子の感想がありきたり以下だったのか館林は大きな瞳をさらに大きくして杏子を見る。

「妹だからですよ」

杏子はこう返して苦笑いをした。

「お先に失礼します」

時間になり他のﾒﾝﾊﾞｰに声をかける。

「お疲れさま」

「お疲れ」

仲間の声に送られて私服に着替えた杏子は職場を出た。

「…おい」

ﾌﾟｰﾙの側の喫煙所から声がして振り返る。
「市川さん、お疲れさまです」

その場に立ち止まり近くに行く。

「…もっと他に言い方があったんじゃねえか？」

市川が何を言っているのかは容易に想像はつく。昼休みの事だろう。

「嘘はつけません。あんな風に藺生のが精一杯です」