B級恋愛
杏子は精一杯の思いでこう言った。これ以外の言葉なんて浮かんでこない。

「普通でした何て言わねぇだろ。いっくらボイコットをしていたとは言え…」

市川はこう言ってタバコに火をつける。ゆっくりと吸い込み吐き出す。

「そうかもしれません…けど私はあんな事になって後半は全く出ていないんですよ?まあ…つまらなかったとも答えられますが」

荷物を椅子の上に置いてサイフを取りだし自販機で飲み物を買う。喉の渇きを潤すように一気に飲み干す。

「あれからどうだったんだ?心配していたんじゃねえの?」

「いいえ。全くと言っていいくらい心配なんてされていませんでした。こっぴどく叱られはしましたが」

杏子の言葉に何も返せなかった。たしかにその日はある意味‘仮病’を使ったと言うのが事実である。だが家族となればいくら何でも―――

「まあ、あれは私が悪いですから仕方ないです。巻き込んでしまってごめんなさい」
杏子は地面に付きそうなくらいの勢いで頭を下げた。

「まあ…そうだな。別に巻き込まれたとかそんな風には思っていねぇから気にするな…気を付けて帰れよ」

市川はこう返してその場を離れていった。
もう馴染みの構内の風景。大型のダンプが行き交っている。門を出て帰路を急ぐ。夕日が目に眩しくてスピードを落とす。スーパーにより弁当用の冷凍食品をいくつか買い、家についた。

夕食も入浴も済ませて携帯を操作する。読み始めたばかりの携帯小説を読み進めていくうちに睡魔に襲われて寝落ちをした。

< 17 / 31 >

この作品をシェア

pagetop