B級恋愛
連れてこられたのはある部屋だった。値段的には高くも安くもない…といったところか。入り口の前に杏子を下ろし鍵を開ける。中に入るように促されて入る。
入っていくと窓から見慣れた景色が見えた。

「親御さんには連絡できるか?式の最中にボイコットをしたんだから適当な言い訳を考えた方がいい」

確かにそうだ。連絡をしないと不味い。もっとも式の最中でそれどころではないだろうが。

「フロントの人に頼んで担当者に伝えてもらう…体調が悪くなって空いている部屋で休んでますって伝えてくださいって」

この位しか浮かばない。親の携帯を鳴らした所で出られるはずないことくらいわかっている。

「それがベストだろうな。客室のフロントに話をつけろ」

市川にこう言われてインターフォンを手にする。係りの人に事情を話して元の位置に置く。
「何か飲み物を買ってくるから着替えろ。そんな格好でいるよりは病人っぽく見えるから」

市川が部屋を出ると杏子は部屋着に着替えた。

だだっ広い。こんな言葉がぴったりの部屋に一人座り込む。脱ぎっぱなしのカクテルドレスを弄ぶ。あと数回くらいしか着ないドレス。数回も着ることはできないかもしれない。女性の体型は変わりやすいから…ふとこんな事を思いながら立ち上がり手にとりクローゼットにしまう。

「相崎。着替えたか?」

外から市川の声とドアを叩く音がする。

「あ、はい。どうぞ」

外にいる市川にこう返してドアを開けた。
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