B級恋愛
「ほら」

部屋にはいるなり市川は買ってきた炭酸飲料を杏子に投げ渡した。部屋の奥に進むとお茶のペットボトルのふたを開けて流し込む。市川にもらった炭酸飲料でのどを潤す。シュワシュワな感触が喉に心地よい刺激を与えてくれる。気がつくと半分くらい飲み干していた。余程喉が乾いていたのだと思い知る。
「落ち着いたらシャワーでも浴びろ。そしてまたそれを着るといい」

市川はこう言うとベランダに出て煙草に火をつける。

「覗かないでくださいね」

「ブホッ…」

杏子の突発な一言に噎せてしまった。涙目になりながら振り返ると姿はない。

(だっ…誰も覗かねぇつうの!)

心の中でドツキなから再びタバコを吸い込んだ。

浴室に入るとシャワーの蛇口を捻る。水しぶきの音と湯気が杏子を包む。頭からお湯をかければカチカチに固めていたワックスが流れ素に戻っていく。常備されているアメニティを使えば身体が解放されていく。この瞬間がなんとも心地よい。

(お湯をはってつかりた―――…あっ)

大事なことを忘れていた。

「市川さんっ」

「おわっ、相崎。お前―――」

勢いよく出てきた杏子の姿に市川は慌てて顔を背ける。

「へ…?きゃっ」

慌てて浴室に戻る。バスタオルを巻いて再び出る。

「ったく。どうした」

大胆なため息をついて杏子に問いかける

「…あのこのお部屋の代金も市川さんに借りることになりそうで…今私持ち合わせが…」

「なんだ、そんなことか」

市川は座っていたベットから立ち上がり杏子の側にいく。

「ちょっ…市川さん、こな―――」

「部屋代は気にするな。ただしオレからの業務命令は受けてもらう」

―――?

市川の言葉に杏子は目を見開いた。

「そのドレスをもう一回着て待っていろ。…オレは一度下に降りる」

こう言って再び部屋を出た。

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