SEXY-POLICE79
覚悟はもう決めてある。桐野はくっと目つきを変えた。そして病院の入り口に停めてある柳沢の車に目をつける。車でなら第一殺人現場であるクイーンズホテルまでそう時間は掛からない。掛かってもここからなら一時間もあれば到着できる。桐野は柳沢に車の鍵を要求した。柳沢は当然驚いた声を上げる。まだまだ安静にしていなくてはならない桐野は一体何を考えているのか、柳沢は駄目ですよと桐野を病室に引き返させる。おかしいと思ったのだ入院していると聞いていた彼とこんなところで会うなんて、まさか桐野は医者に黙って病院を抜け出そうと考えていたのかもしれない。柳沢はまったく余計な心配かけさせないで下さいよと心の中で叫んだ。
しかし桐野は決して病室へは退かなかった。ぐっと足を踏ん張って柳沢に車の鍵を要求する。その目は今までにないほど冷たくて真っ直ぐに自分を見ていた。

それでも柳沢は鍵を渡そうとはしない。渡してはいけないと思ったからだ。でも何故か頭ではそう思っているのに手は動く。桐野は柳沢から鍵を受け取るとすいっと横切って行ってしまった。そして横切りざま一言言った。ありがとう、と。

柳沢はすぐに振り返り叫んだ。自分も連れて行ってほしいと。でもそれは桐野が許さなかった。首を横に振って静かに車に乗り込んでエンジンをかける。柳沢は後から追いかけようと考えもしたけれど、彼が拒んだ以上それは出来なかった。何も言わず信じて黙って待つ。これも刑事として大切なことだと柳沢は思ったから。だから追いかける事もしない、遠く離れていく自分の車を見ていた。

「柳沢くん、来てくれたのか」

そこへ須田検事と病院の前でばったり会う。柳沢は何故かにこりと笑った。

「はい。それにしても先輩大丈夫なんですか?けっこう深い傷だって聞いたんで慌てて来てみたらピンピンしてるし車もっていかれるし」

もうわけがわかりませんと柳沢は言う。

どうして君は前だけしか見ないのか。

須田はそんな桐野がとても心配でならない。手術が成功したとはいえまだ傷口が完治したわけではない。無理をして傷口が開くことでもあれば輸血の足りていない彼はどうなるか。考えただけでぞっとする。いま彼の身体が動いていること事態が不思議なぐらいだ。一体彼のどこにそんな精神力があるのか。

< 22 / 223 >

この作品をシェア

pagetop