Memories of Fire
「わ、私はただ、政略結婚でも、それ相応の形を保たなきゃって思っただけで……!」

 違う。本当は、もっと一緒にいて欲しい。

 マリーとエルマーを近くで見てきたせいか、ソフィーの中で恋人や婚約者同士は、一緒にいるべきものなのだという認識があった。ソフィーの両親、現国王夫妻も仲が良いから尚更だ。

 だから、なんとなく……心のどこかで期待していたのだ。自分に婚約者ができたら、優しく寄り添ってくれて、なんてことない日常を色鮮やかにしてくれるのではないかと。

「では、ソフィーの思う政略結婚を教えていただけますか?」

 ソフィーがここまで言ってもクラウスは淡々とした態度を変えない。クラウスがわざとソフィーに彼女の希望を言わせようとしていることはわかる。

 でも、そんな幼い娘みたいな憧れを口にするのは恥ずかしい。まして、こんな薄情な婚約者に頼み込むなんてしたくない。

「もういいわ。また結婚式に会えばいいわよ。政略結婚なんだもの」

 堪えきれない涙が頬を伝う寸前、ソフィーはクラウスに背を向けてそれを隠す。だが、震える声だけは誤魔化せなかった。

「まったく、貴女という人は」

 ソフィーがそう言うと、クラウスは呆れたように呟き、ため息を吐き出す。彼の態度にまた嫌な焦燥感が心を乱す。

 それでも、ソフィーは素直な態度を取れなくて……心の中で頑固な自分をひたすら罵った。

 一度は好きだと言ってくれたクラウスだが、こんな強情でわがままな王女には嫌気が差すに違いない。だから、彼はソフィーを放っておくのだ。

 頭ではわかっているのに、自分でもわからない何かがソフィーの素直な気持ちを堰き止める。

 ソフィーは心の中で頑固な自分を罵りつつ、クラウスが出て行くのをじっと待った。泣いているとバレないよう、涙を拭くこともできないし、鼻も啜れない。
< 18 / 62 >

この作品をシェア

pagetop