ヴァイス・プレジデント番外編
キスの天ぷらをかじりながら、そんなふうに無邪気に喜ばれて、なんだか微笑ましくなってしまう。

そういえば、私から彼について尋ねたことは、あまりなかったかもしれない。



「ええ、知りたいです」

「小学校の頃から、剣道一筋だよ」



思わず、まあ、と声が出た。

そんな和風の競技が返ってくるとは思わなかったからだ。



「水泳は? ヤマトさんのように」

「うち、兄弟みんなバラバラなんだ、下の弟はテニスだし」



確かにバラバラだけど、個人競技という共通点があるにはある。

協調性のない兄弟なのかしら。

そう言うと、当たり、と彼が笑った。



「お煙草、どうぞ」

「ありがと」



座卓の端にあった灰皿を彼の前に置くと、にこりと笑んで、ワイシャツの胸ポケットから煙草をとり出す。

初めての食事の際、彼は吸わなかったけれど、ポケットに煙草が入っていたことに私は気がついていた。

いつ言い出すかしらと思っていたら、結局彼は吸わないまま食事を終えた。

二度目の時に、私から勧めた。



「久良子ちゃんのお父さんは、うちの親父に似てるの?」

「いえ、まったく。むしろ対極です」



父はだらしのない人で、なのに小学校教諭なんて聖職を、どうやってか務めていた。

どんな思想があるんだか、海外の日本人学校を転々とし、家族をつれて数えきれないほどの土地を移り住んだ。

私は秋田出身とは言っているけれど、実際はメキシコ生まれの、世界中育ちだ。


父方の親族は秋田にいるし、小学校の頃にも秋田で過ごした期間があり、ひとところに落ち着いた記録としてはそれが最長。

故郷と言っても、その程度。


国内もあちらこちらと移動し、離島に住んだこともあれば、寒村の暮らしをしたこともある。

私は途中でうんざりし、首都圏にいる親戚を頼って、高校に上がると同時に親元を離れた。

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