ヴァイス・プレジデント番外編
「お見合いって」
「兄貴の奴、なに考えてんだろ」
受けるなよなあ、とあきれたように言うヤマトさんは、この頃はまだ笑っていた。
夕休みに、食事するほど空腹でもなく、社屋の裏手の段差に腰を下ろして、缶コーヒーを飲みながらの雑談中だった。
少し肌寒いけれど、基本的に背広を嫌うヤマトさんは、ワイシャツ姿だ。
清潔で、ぴしっと筋目の入ったストライプのシャツは、豊かな筋肉を覆ってたくましい身体を綺麗に見せている。
投げ出した足先を重ねたヤマトさんが、身体の後ろに手をついて夕方の空を見あげた。
くつろぎきっているようなその顔を、春の優しい風がなでて、短い前髪がさらさらと揺れる。
ふいに背後のドアが開いて、出てきた男性社員がヤマトさんと私を見て、あ、と戸惑った声を上げた。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
肩越しに、気楽に声をかけるヤマトさんに、新人らしいその社員はおたおたと頭を下げ、ダストステーションに機材を置いて、戻っていく。
「兄貴、久良子さんと、何かあったのかな」
「久良子さん、そういうの、出さないので」
今日、社内で偶然会ったけれど、特に変わりないようだった。
いつものとおり、色っぽくて明るくて、少し神秘的な久良子さんだった。
和華さんと暁さんなら、何か知っているだろうか。
だけど久良子さんは、あのふたりにも延大さんとのことを言っていないみたいだったので、私から何か訊くわけにもいかない。
「おふくろの仕事相手の娘さんらしいんだけどね」
「じゃあほんとに、いわゆるお見合いですね」