ヴァイス・プレジデント番外編
「お父さんのこと、好きじゃないの?」
「いえ、父親っ子でした」
おかしいでしょう? と笑いかけると、延大さんも少し驚いたような顔で笑う。
自分でもおかしいと思う。
さんざん父親をこきおろしておいて。
父親の、人に自慢できる点なんて、何ひとつ見つからないのに。
私は幼い頃から、父のことが好きだった。
たぶん彼が、初めての子供であり、ただひとりの娘である私を愛してくれたということもあるし。
母が頼りにならない家庭で、純粋に、彼が私の保護者であったからでもあるだろう。
私が許せないのは、どちらかというと、母だ。
いつまでも人生の被害者のような顔をして、成長しようとしない母。
私が父親に、人として男として、感心するべき点を見いだせないのは、母がそんなだからだと子供心に感じていた。
父が暴君に見えるのは、母が言いなりだからだ。
父が加害者に見えるのは、母が被害者ぶっているからだ。
そんな歪んだ心理が、私の中にはずっとあり、自分でも、いつもそれを不思議に思っていた。
「エディプス・コンプレックスだね」
「なんですか?」
「女の子だから、エレクトラ・コンプレックスかな。父親への愛のあまり、母親を憎むっていう」
まさにそれだわ。
私にとって母は、私が父の妻なら父をあんなふうにはしなかったでしょう、という悪い手本のようなものだ。
別に、父に対して妙な思いを抱いているわけでは、ないけれど。
「延大さんて、心理学専攻でした?」
「ううん、似て非なる、哲学だよ。別にユングとかフロイトとかやってたわけじゃないけど」
「商学系ではないんですのね」