ヴァイス・プレジデント番外編
誕生日当日は週の中日だったので、金曜である今日を彼は指定してきた。
ちょうど用があって出社していた延大さんがタクシーでつれて来てくれたのは、都心の豪奢なホテルで、ホテル内の和とフレンチの折衷創作料理を出すレストランを彼は予約してくれていた。
こんな時まで、私の好みに合わせて和食を意識してくれる律儀な彼に、ありがたさと申し訳なさでいっぱいになる。
「一時はね、死の淵をさまよってたよ」
「そうでしたの」
照明を落とした、くつろげる店内で、メートルが注ぐワインを見つめながら延大さんがうなずいた。
3ヶ月に一度、検査のためと言って一日休みを取って病院へ行く日が会長にはある。
何か患っているのなら、とっさの時に備えて知っておくべきと思い、ある時、失礼にならないよう訊いてみると、会長は気を悪くする様子も見せず、数年前に悪性リンパ腫をやったのだと教えてくれた。
「リンパ節の摘出手術はしたけど、病気自体は手術で治るものじゃないからね」
「いわば血液のガン、ですよね」
そう、と頬杖をついた延大さんが、少し眉根を寄せてあいづちを打った。
当時を思い出しているんだろう、長男である彼には特に、お父様の命にかかわる病気は衝撃だったに違いない。
「俺、留学中だったから。切り上げて戻ってこようとも思ったんだけど」
「会長が、ダメと?」
「『職もない身分で戻ってきてどうする、俺の会社には入れてやらんぞ』みたいな」
最初は無理やり入れておいて、ひどいと思わない? と笑いながら、グラスの片方をこちらにすべらせてくれる。
いかにも会長の言いそうなことで、私は彼と目を見合わせて笑った。