ヴァイス・プレジデント番外編
この会社には、週に何度か来るだけの延大さんは、役員フロアの片隅にデスクを持っているものの、ほとんどそこにはいない。

そもそも来る時は誰かに用事があるか、約束があるかだからだ。

けれど、来るたび律儀に、必ず秘書室に顔を出して、みんなと会話していく。

親父をよろしく、ヤマトをよろしくと言っては、わざと軽く振る舞って私たちを笑わせてくれる。

楽しい人だわ、本当に。


 * * *


そろそろお茶の時間ね。

秘書室のデスクで、PCの時刻表示を見ながら考えた。


ゆうべ遅くまでおつきあいがあったせいか、今朝の会長は、少しお疲れ気味だった。

ビタミン系のサプリメントと、水を一緒にお持ちしよう。

それと、今日の会食相手について、ちょっと気になることがあったから、その件についてもお伝えしないと。



「あの、撤退したソフトウェアメーカーのかね」

「ええ、当時の、事業推進部長でらっしゃいました」



私の渡したプリントアウトを見ながら、会長が黙考する。

今日の会食の主催者は、新進気鋭のネットワークサービス企業の代表取締役社長だ。

会長の参考用にと先方の企業沿革を調べていると、社長の近影に、どうにも見覚えがあった。


記憶を頼りに、私がこの会社に来てからの業界誌などをめくってみると、あった。

うちとほぼ同時期に、そっくりな実用ソフトを売り出してボロ負けした企業の、事業推進部長だ。

そのボロ負けのずっと前に、現場のマネージャーたちを特集する記事の取材を受けていたのだ。



「ですがご本人の来歴に、その会社のことが記載されていないのです」

「それは、少々気になるね…」



会長が、数種類ののサプリメントをトレイから摘まみ上げて、水で流し込む。

そんな仕草も様になって、渋い色香の漂う、本当に素敵なボスだわ。



「安杖君はどうして気づいた? 面識はなかったはずだが」

「一度拝見したら、なかなか忘れないたちなんですの」


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