ヴァイス・プレジデント番外編
「で、ヤマトは、あんなですが、けっこう根は律儀で、義理堅いんです」
「お兄さんを差し置いて、自分だけ好きな子と結婚はできないってこと?」
「そんなところですね」
和之さんが暁にうなずく。
そんなものなのか。
でもそれじゃ、今の奥さんと、今の結婚を決意した延大さんに失礼じゃないかという気もするけれど。
この結婚に始めからただよう違和感を無視できる人間なんて、周囲には確かに誰もいない。
バカね、延大さん。
無理やりにでも久良子を手に入れてしまえばよかったのに。
久良子は、表面上はあっけらかんとして奔放だけど、心の奥に、絶対に手放さない殻のようなものを持っている。
たぶん、それにさわることができた人なんて、延大さんひとりなのに。
真面目すぎたあなたは、どうせ久良子に真っ正直に結婚を申し込んで、断られたから、あきらめたんでしょう。
バカね。
相手の気持ちを聞いてあげるのが、いつも正しいとは限らないのに。
頑固な久良子の意思なんて無視して、結婚してしまえばよかったのに。
その後に気づく幸せだって、あったでしょうに。
「延大さんは、久良子を待てなかったのかしら」
「あれはあれで、またバカみたいに義理堅くて」
「誰への義理ですか?」
「父です」
スコーンを割ると、湯気がふわっと立つ。
私の手元を見ていた暁が欲しそうにしていたので、バスケットをそちらに押しやった。
同じく手元のソーサーの上で、スコーンを器用に割りながら、和之さんがちょっと眉をひそめる。