ヴァイス・プレジデント番外編
「顧問に?」
「兄は、会社を継がなかったことをどこかで後ろめたく思ってるんですよ」
「でも、ヤマトさんがいずれ継ぐでしょう」
「それは結果的にそうなっただけで。本来なら長男である自分が経営陣に加わるべきだと、ずっと思っていたはずです」
「それで、結婚だけでもと急いだっていうの」
「本人にそこまで自覚があったかは、わかりませんが」
綺麗な仕草でクロテッドクリームをスコーンに乗せると、肩をすくめながらそれを口に放りこんだ。
確かに、延大さんがそこまで意識していたのかどうか。
でも、少なくとも和之さんには、そう見えたんだろう。
どこまでバカなの、延大さん。
真面目にも、ほどがあるでしょうに。
早く孫の顔を、なんて単純な思いだったかどうかは知らないけれど。
いつまでもふらふらはしていられないと、彼なりに区切ったタイムリミットが、あの時だったに違いない。
隣を見ると、暁も同じように歯がゆい思いなのか、整った眉を寄せてスコーンを口に運んでいた。
その暁が、和之さんを見すえて静かに言う。
「延大さんご自身は、どういうおつもりなのかしら」
「今の奥さんと添い遂げるつもりだと思いますよ、当然。そういう人です」
実際、夫婦仲はいいようですし、と微笑む和之さんは、どこかさみしげだ。
やはり実の兄が、一番に愛していた人と結婚できなかったことに、残念な思いがあるんだろう。
和之さんとは一緒に働いたこともなく、同じ会社にいたのすらたったの一年間だったけれど、ひとつの家族のような、役員と秘書室という関係に濃いつながりのある彼は、他人とは思えない。
「難しいわね」
「本当に。どうしてこんな、難しいんでしょうね」
しみじみ言う暁に、和之さんもうなずいた。