ヴァイス・プレジデント番外編
「お気を落とさずに」
暁が洗面所へと立った時、たまりかねてそう声をかけると、和之さんが恥ずかしそうに笑った。
「参ったな」
「暁よりお似合いの女性は、たくさんいますよ」
「まあ、そうでしょうね」
あきらめたように微笑んで、ぼんやりと頬杖をつき、天井から床までガラス張りの窓に目をやる彼は、夏の昼間の光に照らされて、やけに華奢に、心もとなく見えた。
「和之さん、女の子に人気あるでしょう?」
道行く人々に顔を向けたまま、目だけでこちらを見て、眉を上げてみせる。
さぞかしあるんだろう。
「和華さんこそ」
「聞かないでください」
私は自慢じゃないが、男性にもてない。
背は170センチをゆうに超えているし、外見にも性格にも女性らしいところは特になく、敬遠される要素ばかりが詰まっている。
まあ、こんな私のことを気に入ってくれる人も、いるにはいるけれど。
「初めて会った時、こんな綺麗な人がいるものかって思いましたけどね」
「でも、私とつきあいたいとは思わなかったでしょう?」
和之さんは、ちょっと申し訳なさそうにしつつも、です、と正直にうなずいた。
その無邪気さに笑うと、彼がまた軽くため息をつく。
「なんでこんなに、難しいかなあ」
「まったくですね」
同意しつつ彼の視線を追うと、駅前の交差点を仲よさげにじゃれあいながら渡る若いカップルが目に入った。
自分も相手を好きで、相手も自分を好きで。
それだけのことが、どうしてこんなにうまくいかないのだろう。