許嫁な二人

   「いやだぁ。」



 そう叫んで、鼻の下をおさえた唯をみて、透がぷっとふきだした。

 一度笑いはじめたら、なかなか収まらなかったようで、透は肩を
 ふるわせている。

 その姿を唯はペンキを落とすことも忘れて、呆然と見つめていた。

 透の笑った顔を見るのは何年ぶりだろう。

 そう思ったら、じんわり涙がうかんできた。



   「お、おまえ、何泣いて、、。」



 泣いている唯をみて透はあわてる。



   「すまん、泣く程嫌だったか、笑ったの。」

   「ち、ちがう、、よ。」



 唯はうまく言葉にできなくて、俯いて泣き顔をかくしたら
 透の大きな手が、ぽんぽんとやさしく頭にふれた。

 それが嬉しくて、泣き顔をそのままに、顔をあげると



   「や、ペンキのひげをつけての泣き顔は笑いを堪えれんから
    はやく、洗ってこい!」



 と言われてしまった。
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