許嫁な二人

 めちゃくちゃに走ってきたから、ここが何処かわからない。

 悠の店と似たような店がならぶ通りを走っていたはずなのに、
 今はまばらな人通りがある車道に面した歩道に唯はいた。

 白い綿毛のような塊をのせた傘が身の前を行き過ぎるのをみて
 唯はやっと雪がふっていることに気づいた。

 傘は悠の店に置いてきてしまったけれど、どうやって戻れるのか
 わからない。

 それに戻りたくなかった。

 透に逢うのがこわかった。

 なぜ自分が透にとって特別な存在なんだと考えたりしたのだろう。

 透に彼女がいたっておかしくないのに、、。


  (キスしようとしてた、、)


 思い出すと何か尖ったものを差しこまれるように、胸がキリキリと
 痛む。

 あまりの痛さに、その場にしゃがみこんで唯は胸をおさえた。



 長い時間、唯はそうしていた。

 雪が唯の頭にも、肩の上にもふりつもったけれど、唯は
 まるでかたまってしまったように、ずっとそこに蹲っていた。
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