許嫁な二人

 そう思って小里にきたのに、唯は店の前で立ちつくしている。

 引き戸にむかって、何度も手をのばしかけてはやめ、
 またのばしかけては、、躊躇い、、。

 何度目になるかわからないくらいになって、再び手をのばした時



   「碓氷さん。」



 と後ろから声をかけられた。

 振り返るとそこには、桜下南高校の制服をきた美しい顔立ちの女生徒が
 たっていて唯にむかって微笑みかけている。



   「碓氷さんでしょ? 久しぶりね。」



 そう言われて、唯は首をひねった。



   「私がだれかわからない?」



 そう言われて、まじまじとその女生徒の顔を見て、”あっ”と唯は
 声をあげた。


  (あの時、透くんと一緒にいた人だ)


 あの時は私服で、今は制服だからすぐにはわからなかった。

 強ばった唯の顔をみて、その女生徒は言った。



   「ちょっと話さない? どこかで。」
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