許嫁な二人

   「俺に逢いたくなかった?」



 別に問いつめるつもりはなかったが、思わず漏れた透の問いに
 唯は顔をふりあげると、必死な顔で否定した。



   「いいえ、違うわ、そうじゃない。」



 でも、そう言ってしまってから、また、はっと何かに気づいたように
 顔をうつむけてしまう。



   「碓氷さーん。」



 弓道場のほうから、唯を呼ぶ声がする。



   「私、行かないと、、、。」



 そう言いながら、唯は透の方を見ないまま歩き出した。

 透の横をすりぬけるとき、また腕をつかまれるかと思ったが
 透はぴくりとも動かなかった。

 それにほっとする自分とがっかりする自分がいて、唯はますます
 顔をうつむける。

 その背中に声がかかった。



   「唯!」



 ぴたりと足がとまり、唯がふりかえると、こちらを見て笑っている
 透がいた。



   「唯、また逢おう。」



 笑顔をうかべたまま、透がそう言った。
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